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カスタマーレビュー ![]()
幻想の書
(2006-09-30)
私がポールオースターが好きなのは、彼の書く文章が綺麗で素敵だからです。書いてある中身がなんであれ、読んでいるだけで脳内に快感ホルモンが分泌されて来る、そういう書き手だからです(ムラカミハルキさんの文章もそうです)。しかし、この作品はその綺麗な文章で思い切り「語られて」しまいました。ストーリーテラーとしてもオースターは凄いんだ、ということを、改めて、深く、認識させられてしまったと言って過言ではありません。人生に絶望する以外手のなかった主人公が、じわじわと誰も見たことのない、ある喜劇俳優の残した映像を探す旅に引き込まれて行きます。読み手も同じように、心の中で重い腰を上げ、旅に出て行く気分になって行きます。思わず読み進めざるを得ない。彼の英語は平易なのではなくて無駄がないのです。だから読み易い。そして読んでいて気持ちいい。程よく冷えた水が体の内側にしみ通って行くように、彼のストーリーがあなたの胸の中にも瑞々しく拡がって行く様をたっぷりエンジョイして下さい。
オースターワールドの長所と短所が見えました。
(2005-09-04)
これまでの彼の作品同様、やはりストーリーの展開の仕方はすばらしい。まさにstorytellerといった感じ。その一方で、書くこととはどういうことなのか、「幻影の書」とは何なのかという核心的な問いにも迫っていて、さすがだなと思った。共感できる面も多かった。
ただ、自暴自棄になった主人公が、偶然に身を委ねるがままに非現実的な世界へと足を踏み入れていくというパターンには、そろそろ飽きてきてしまったなという気がした。Sylviaがでてくるくだりなんかはちょっと理解できなかった。
しかし、それを差し引いてもやっぱりオースターの作品は読み応えがある。
Two kinds of writing at once ........
(2005-08-23)
実に工夫された構成で、読者を惹き込んでいく。読後に静かなしかし深い充足感があった。
愛する妻子を飛行機事故で亡くした失意の大学教授 David Zimmer と、彼が生きるよすがとして探索をはじめたサイレント・ムーヴィーの俳優にして製作者Hector Mann、二人の男の人生が、1920年代〜と1980年代〜を背景に語られる。David には愛する者を失った悲しみと喪失感から再起できるのかという物語、Hectorには図らずも一人の女を死に追いやったことへの生涯をかけた贖罪の物語。
Hectorの様々な女たちとの出会いと別れ、その後製作し、死後に灰と消える運命の映画と彼の妻となったFriedaの想い、それらを追及しつづけた女性AlmaとDavidが共有したわずか8日間。さまざまな人生が展開すると同時に、この小説は、Hectorが製作した映画そのものが詳しく再現され、「映画をめぐる文章と小説自体のふつうの文章、両者を組み合わせるのは楽しかった」と作者Austerは柴田元幸氏とのインタビュー(Nine Interviews)の中で語っている。
英文自体はそんなに難しくなく読める。会話にクォーテーション・マークをつけないスタイルは馴れると流れるような感じで美しい。
純粋芸術
(2004-09-07)
書いたけれど誰にも読まれなかった本。撮ったけれど誰にも見られなかった映画。『偶然の音楽』に出てくる「壁」にも通じる、そんな「誰にも見てもらえない芸術作品」についての物語が、このThe Book of Illusionsだと思います。単に「製作されること」だけが目的で、完成後に日の目を見ないような、言わば、純粋芸術作品には、どんな意味があるのでしょうか。そう考えてみると、Paul AusterはNew York Trilogyの頃から、純粋芸術の存在意義を読者に問い掛けていたのでは、などと思ってしまい、ちょっと旧作から読み直してみようかという気持ちになります。柴田元幸氏の名訳も好きですが、非常に平易で読みやすい英文は、学生さんにもお勧めです。
挑戦的な本
(2004-02-21)
家族を飛行機事故で亡くしたデイヴィッド・ジンマー。失意のうちに日々を過ごす彼は、ある夜、往年のコメディ俳優のヘクター・マンに心を奪われる。ジンマーは生きていることの証明としてヘクターの作品をめぐる旅に出発し、謎めいた俳優の人生を追体験する。
いわゆるミステリーよりも文学的な雰囲気がある作品だ。読み終わっても爽快さや快適さを感じるのではなく、しみじみとした気分が残るような作品である。英語も一つのパラグラフを長く書き、主人公の心理を細かく書き上げるという手法であり、このように文章のほとんど全てが心理に関するものだといっても差し支えない。その意味で「重い」作品である。
英語自体は簡単だが、この作品を読むという行為は挑戦的だ。ペーパーバック読書の中級者以上にお勧めする。

